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原子力プラントの熱流動最適評価に関する安全研究 事後評価 説明資料
著者・機関
原子力規制庁 長官官房技術基盤グループ シビアアクシデント研究部門
発行年
2023年(令和5年)4月
種別
政府報告書(解説)
実施期間
令和元年度〜令和4年度(2019〜2022年)
DOI/識別子
NRA公開資料 参考資料1(NRA規制委員会審議資料)
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分野タグ
BWR
ATWS
熱流動
BEPU
安全解析
LOCA
最適評価
背景
軽水炉の安全評価において、従来の保守的評価(Conservative Analysis)から物理現象をより正確に模擬した最適評価(Best-Estimate Analysis)への移行が進んでいる
最適評価の規制活用事例として、BWR CNO会議(10×10新型燃料導入)、デジタル安全保護回路のソフトウェアCCF評価、サンプスクリーン下流側影響評価などが顕在化してきた
最適評価コードの妥当性確認・審査を規制側が独立して実施するためには、長期的な技術基盤構築が必要であり、先行して以下のプロジェクトを実施してきた:
国産システム解析コードの開発(H24〜H30)
事故時等の熱流動評価に係る実験的研究(H24〜H30)
多重故障事象の影響評価に関する研究(H25〜H28)
詳細解析手法の導入に向けた熱流動・核特性安全解析手法の整備 Phase-2(H25〜H29)
本プロジェクトはこれらを継承し、令和元年度〜令和4年度の4年間にわたって実施された
目的
① 事故時の物理現象の把握及びモデル高度化
:BWR ATWS条件下の液膜ドライアウト・リウェット、RIA条件のボイド挙動(OSV)、LOCA時のFFRDと再冠水を実験・解析で評価
② 原子炉システム解析コードのV&V
:国産コードAMAGIの妥当性確認(検証・実証)を学会標準に準拠して実施
③ BEPU手法の高度化及び安全解析への適用
:米国規制動向調査、ベイズ逆解析による不確かさ定量化、TRACE/PARCSの実機解析環境整備
規制機関として事業者の最適評価結果を技術的に審査できる能力を確立する
手法
① 実験的研究
BWR ATWS模擬試験
:高圧・単管/バンドル条件で圧力・出力・流量を振動させた実験(JAEA委託・電中研委託)。逃し安全弁開閉に伴う振動条件を世界初規模で模擬
スペーサ効果試験
:スペーサ種類を変えた限界出力試験・液滴挙動試験
低圧サブクール沸騰挙動解明試験
:OSV前後の気泡挙動観察(電通大委託)
総合効果試験
:JAEA LSTF(多重故障事象)、OECD/NEA PKL-4、ETHARINUS(国際プロジェクト)
LOCA時再冠水
:OECD/NEA RBHTデータ取得・分析
プール水温度成層化
:小型プール実験(早稲田大共同研究)
② 解析コード・モデル開発
MCHNC-CISE
:3流体場(液膜・液滴・蒸気)モデルに基づく液膜ドライアウト・リウェット評価コードを新規開発。COBRA-TFの液膜評価値で判定
OSVモデル
:従来の気泡離脱モデルとは異なり、大気泡形成機構に基づく新モデルを開発
FFRD(Fuel-to-Fuel Rod Dryout)
:機構論的モデル化
再冠水モデル
:RBHTベンチマーク解析で妥当性確認
③ AMAGIのV&V
日本原子力学会標準(「シミュレーションの信頼性確保に関するガイドライン:2015」「統計的安全評価の実施基準:2021」)に準拠
PIRTに基づく試験選定→個別効果試験解析→解析データベース拡充
PSBTバンドル定常ボイド率試験で最新構成式の性能評価
TRACEとの比較によりボンピング因子などのモデル詳細に係る知見を拡充
④ BEPU手法の高度化
米国規制動向調査(PWR/BWRでのBEPU採用状況)
ベイズ手法に基づく逆解析手法の試解析(BFBT試験でパラメータ推定)
OECD/NEA ATRIUMプロジェクト参加(〜R6.12)
TRACE/PARCS入力データ整備:ABWR(9×9A燃料)、110万kW級BWR5、80万kW級BWR5、3ループPWR
主要結果
液膜ドライアウト・リウェット
BWR ATWS条件(圧力・出力・流量の振動)下での液膜ドライアウト・リウェット挙動の実験データを世界で初めて体系的に取得
第6スペーサ上流・第7スペーサ上流の被覆管温度について、計算値(MCHNC-CISE)と計測値が良好な一致(振動サイクル位相・温度振幅ともに再現)
3流体場モデルによる評価手法が、従来の2流体モデルよりもATWS実験条件での液膜挙動を精度よく再現することを確認
OSVモデル
OSV前後の気泡観察写真から、低圧条件では従来の小気泡離脱とは異なる大気泡形成が支配的であることを確認
大気泡形成に基づく新OSVモデルを開発し、低圧サブクール沸騰実験データとの一致を確認
AMMAGIのV&V
PSBTバンドル定常ボイド率試験(計測値0〜0.8の範囲)において、AMAGI(尾崎らの式等)とTRACE5.0が同等の精度で実験値を再現することを確認
Zeitounら低圧サブクールボイド実験において、ボンピング因子の有無によるボイド分布の差異を特定し、評価モデルの知見を拡充
BEPU解析環境
TRACE/PARCSによるプラント解析データを整備:ABWR・BWR5(110万kW/80万kW)・3ループPWRの4プラントタイプ、AOO/DBA・重大事故・ATWS・LOCAを包含するシーケンス
ベイズ逆解析手法の試解析でBFBT試験のバンドル内気泡・スラグ流界面せん断係数の事後分布を推定(左右非対称の分布形を確認)
研究アウトプット(4年間計)
NRA技術ノート 1件、査読付き論文 9件(NRA著者3件+委託先6件)
国際会議プロシーディング(査読付き) 5件、学会発表 10件
コメント
BWRエンジニアの視点から:
本報告書で最も注目すべきは、
BWR ATWS条件下の振動模擬実験
の完成度の高さである。逃し安全弁の周期的開閉による圧力振動は実機ATWSの本質的な特徴であり、これを再現した高圧バンドル実験は世界的にも先駆的な取り組みと言える。MCHNC-CISEが被覆管温度の振動位相・振幅を良好に再現した事実は、ATWSの燃料健全性評価に最適評価手法を適用する際の信頼性根拠となる。
規制独立性の観点
から、NRAが独自の解析コード(AMAGI)とBEPU解析環境(TRACE/PARCS入力データ)を保有したことの意義は大きい。事業者の最適評価申請に対して、NRAが独立に再現計算・感度解析を実施できる体制が整ったことを意味する。特にATWSは保守的解析で設定値根拠を示してきた従来手法から、BEPU手法による確率論的正当化へ移行しつつあり、このインフラ整備は時機を得ている。
残課題として
、ベイズ逆解析手法の実機適用可能性については「課題がある」と明記されており、不確かさ定量化の精度向上が引き続き重要な研究テーマである。また、10×10新型燃料への最適評価適用(CNO会議)が今後予定されており、本プロジェクトで構築した知見の実践的活用が問われる局面が近い。
業務でRELAPを使用している立場からは、
AMAGIとTRACEの比較・V&V情報
は直接参照できる知見であり、サブチャンネルコードとの連携(スペーサ効果の取り込み)は自身の研究課題と直結する。
未解決問題・今後の課題
ベイズ逆解析手法(不確かさ定量化)の実機スケールへの適用:試解析(BFBT試験)では事後分布推定は可能だが、実機解析への拡張には方法論上の課題が残る
BWR 10×10新型燃料導入時のCNO会議において、最適評価コード・BEPU手法を用いた安全解析の審査が予定(本プロジェクト成果の実践的検証となる)
液膜ドライアウト・リウェットの実機スケール外挿:高圧バンドル実験条件から実機BWRの全体的なATWS事象への外挿妥当性の定量評価
スペーサ効果の系統コードへの汎用的な組み込み手法(モデル高度化)
プール水温度成層化のGOTHICによるS/C評価への適用・検証
OSVモデルの実機RIA条件への検証・適用
研究課題メモ
💡 アイデア1:ATWS振動条件下の液膜ドライアウト実験データを用いたサブチャンネルコード検証
本報告書のATWS模擬実験(高圧バンドル・振動条件)データをベンチマークデータとして、サブチャンネルコード(COBRA-TF等)の予測精度を定量的に評価する。振動条件への適用性は既存コードで未検証の領域。
→
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💡 アイデア2:BWR ATWS解析へのBEPU手法適用とNRA解析環境の活用
NRAが整備したTRACE/PARCSのABWR入力デックを参照・拡張し、ATWS事象に対してBEPU手法(モンテカルロ不確かさ伝播)を適用する。燃料被覆管最高温度の統計的評価と保守的解析との比較で安全裕度の合理化を図る。
→
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関連論文
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— Post-BT基準・BEPU手法の方向性が本報告書の液膜ドライアウト研究の背景に対応
ATWSサーベイまとめ(2026)
— 本報告書はATWSサーベイの参考資料(政府レポート)として位置づけ
関連キーワード
BWR
ATWS
液膜ドライアウト
リウェット
BEPU
AMAGI
TRACE/PARCS
OSV
LOCA
最適評価
NRA
V&V
不確かさ定量化
ベイズ逆解析
MCHNC-CISE
本報告書で最も注目すべきは、BWR ATWS条件下の振動模擬実験の完成度の高さである。逃し安全弁の周期的開閉による圧力振動は実機ATWSの本質的な特徴であり、これを再現した高圧バンドル実験は世界的にも先駆的な取り組みと言える。MCHNC-CISEが被覆管温度の振動位相・振幅を良好に再現した事実は、ATWSの燃料健全性評価に最適評価手法を適用する際の信頼性根拠となる。
規制独立性の観点から、NRAが独自の解析コード(AMAGI)とBEPU解析環境(TRACE/PARCS入力データ)を保有したことの意義は大きい。事業者の最適評価申請に対して、NRAが独立に再現計算・感度解析を実施できる体制が整ったことを意味する。特にATWSは保守的解析で設定値根拠を示してきた従来手法から、BEPU手法による確率論的正当化へ移行しつつあり、このインフラ整備は時機を得ている。
残課題として、ベイズ逆解析手法の実機適用可能性については「課題がある」と明記されており、不確かさ定量化の精度向上が引き続き重要な研究テーマである。また、10×10新型燃料への最適評価適用(CNO会議)が今後予定されており、本プロジェクトで構築した知見の実践的活用が問われる局面が近い。
業務でRELAPを使用している立場からは、AMAGIとTRACEの比較・V&V情報は直接参照できる知見であり、サブチャンネルコードとの連携(スペーサ効果の取り込み)は自身の研究課題と直結する。