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鉛冷却高速炉(LFR)

Lead-cooled Fast Reactor の略。冷却材に液体鉛(Pb)または鉛ビスマス合金(Pb-Bi)を用いる第四世代高速炉。 高沸点・常圧運転・固有安全性に優れ、燃料増殖・超ウラン元素(TRU)焼却・熱利用の多目的展開が可能。 ロシア・欧州・米国で開発競争が活発化しており、2020年代後半に試験炉・原型炉の稼働が見込まれる。

基本仕様(代表値)

項目小型LFR(SMR級)中型LFR(原型炉級)
冷却材液体鉛(Pb)または鉛ビスマス合金(Pb-45%Bi)
熱出力100〜400 MW(th)700〜2,800 MW(th)
電気出力30〜130 MW(e)300〜1,200 MW(e)
冷却材出口温度480〜550 ℃480〜550 ℃
運転圧力常圧(≈ 1 atm)
中性子スペクトル高速(熱中性子なし)
燃料金属燃料(U-Pu合金)またはMOX・窒化物燃料
燃料被覆管フェライト系ステンレス(FMS)または ODS鋼
熱効率約 40〜42 %(蒸気サイクル)

冷却材の物性

液体鉛(Pb)の基本特性

物性値液体鉛(Pb)Pb-Bi共晶合金(LBE)水(BWR・参考)
融点327 ℃124 ℃0 ℃
沸点1,749 ℃1,670 ℃100 ℃(1 atm)
密度(400 ℃)10,500 kg/m³10,200 kg/m³約 900 kg/m³
動粘度(400 ℃)約 2.0×10⁻⁷ m²/s約 1.5×10⁻⁷ m²/s約 1.2×10⁻⁷ m²/s
熱伝導率(400 ℃)約 16 W/(m·K)約 13 W/(m·K)約 0.6 W/(m·K)
Pr数約 0.02約 0.02約 1.0(液水)
運転圧力常圧常圧約 7 MPa
蒸気圧(500 ℃)約 4×10⁻⁴ Pa約 5×10⁻³ Pa— (沸騰冷却材)

液体金属冷却材としての熱流動上の特徴

中性子物理

高速炉としての特性

BWRとの中性子物理比較

安全性

冷却材喪失事故(LOCA)が原理的に起きない

液体鉛は常圧運転のため、BWRの「破断による急激な減圧フラッシュ→蒸気発生」という現象が起こらない。 配管が破断しても鉛が流出するだけで、蒸気爆発・急激な出力変動につながらない。 BWRで重要な緊急炉心冷却系(ECCS)に相当する高圧注水機能が不要。

受動的自然循環冷却

液体鉛の高密度(水の約10倍)により、電動ポンプ停止後も炉心とデッキ上の熱交換器の高低差(通常5〜10 m)だけで大きな自然循環流量が得られる。 全電源喪失(SBO)時にも崩壊熱を除去できる。BWRのICSやPCCSに相当するが、作動条件・信頼性はさらに高い。

固有の負の反応度フィードバック

出力上昇→燃料温度上昇→ドップラー効果による反応度低下、という負のフィードバックは軽水炉と共通。 さらに冷却材温度上昇による鉛密度低下→中性子漏洩増加→反応度低下、という追加フィードバックも働く。 制御棒なしでも過渡時の自動停止能力(ATWS余裕)が高い。

放射能放出経路の遮断

揮発性FP(ヨウ素・セシウム等)が液体鉛中に溶解・吸着される効果があり、冷却材への移行が抑制される。 また常圧運転のため破断時の放射性物質の大気放出ドライビングフォース(内圧)がBWRより格段に小さい。

熱流動と伝熱設計

炉心熱伝達(液体金属強制対流)

蒸気発生器(SG)設計

主要な技術課題

構造材料の腐食(最大の技術課題)

液体鉛・LBEは酸素ポテンシャルに応じてステンレス鋼を腐食する。 酸素濃度が高すぎると酸化膜が形成されて保護効果があるが、低すぎると Fe・Ni・Cr が溶解する。 最適酸素活量(10⁻⁶〜10⁻⁴ at%)を精密に維持する酸素制御システム(OCS)が必要。 BWRの炉水水質管理(ECP・水素注入)と概念的には類似するが、温度範囲・管理手法が全く異なる。

融点管理(凝固・再融解)

鉛の融点は 327 ℃、LBEは 124 ℃。停止中に冷却材が凝固すると配管・ポンプが閉塞するリスクがある。 電気トレース加熱やインサービス中の保温設計が必要。 LBEはその点融点が低く管理しやすいが、Biの中性子捕獲で生成する⁲⁰⁸Po(α線源)が強放射性で取扱いが困難。

放射性ポロニウム(⁲¹⁰Po)問題(LBEの場合)

LBEでは ²⁰⁹Bi(n,γ)²¹⁰Bi →β⁻→ ²¹⁰Po の反応により放射性ポロニウムが生成。 ²¹⁰Poはα線源(T₁/₂ = 138 日)で揮発性があり、冷却材蒸気とともに漏洩した場合の内部被曝リスクが高い。 ロシアの原子力潜水艦でのLBE利用実績があるが、定期的なポロニウム除去・管理技術が必要。 純鉛(Pb)を冷却材に選べばPoの生成はほぼ回避できるが、融点管理の難易度が上がる。

ポンプ・計装の技術難易度

鉛の高密度(10 t/m³)・高融点・腐食性は機械ポンプ設計を困難にする。 電磁ポンプ(EMP)は可動部がなく腐食リスクが低いが、電気効率が低い。 流量計・液位計には電磁式(EMFM)や超音波式が使われるが、高温腐食環境での長期信頼性が課題。 BWRの給水ポンプや再循環ポンプとは全く異なる設計思想が求められる。

BWRとの比較

観点BWRLFR
冷却材水(二相流、7 MPa)液体鉛(単相、常圧)
中性子スペクトル熱(水で減速)高速(減速材なし)
増殖比(BR)< 1(消費炉)≥ 1(増殖炉が可能)
ボイド反応度負(重要な安全機能)無(沸騰なし)
LOCA応答ECCSによる緊急注水必要LOCAが原理的に発生しない
崩壊熱除去RCIC・RHR・注水が必要自然循環で受動除去
熱伝達式Dittus-Boelter(単相)、Jens-Lottes等(沸騰)Lyon-Martinelli(液体金属)
主要腐食リスク炉水酸素濃度・ECP管理酸素ポテンシャル・LBEポロニウム
SG設計リスク鋼-水接触(通常)鉛-水反応(二重管等で対策)
燃料サイクルウラン濃縮→使い捨て主流TRU増殖・MA焼却でクローズサイクル

主要開発プロジェクト

BREST-OD-300(ロシア・セベルスク)

ロシア・ロスアトムが主導する純鉛冷却の実証炉(電気出力 300 MW(e))。 2021年に着工、2030年頃の稼働を目標。MOX燃料使用、閉燃料サイクル実証が目的。 炉サイト内に燃料製造・再処理施設を一体化した「PRORYV(ブレークスルー)プロジェクト」の中核。 ロシアが最も実績ある国として開発をリードしている(BOR-60・BN系列の高速炉運転経験を基盤とする)。

ALFRED(欧州・イタリア・ENEA主導)

欧州が推進する鉛冷却実証炉(Advanced Lead Fast Reactor European Demonstrator)。 電気出力 125 MW(e)、LBEではなく純鉛冷却を選択。 ルーマニアへの建設を想定し、EURATOMの研究プログラム(PASCAL等)で設計が進む。 日本・韓国との国際連携も視野に入れた設計認証プロセスを推進中。

LFR-AS-30 / ニュークレオ社(フランス)

2019年設立のフランスのスタートアップ、ニュークレオ社が開発する小型LFR(電気出力 3万kWe)。 2032年までのフランスでの原型炉稼働を目標。2026年4月にNRCとの事前協議を開始し米国市場参入も表明。 米オクロ社とのパートナーシップでMOX燃料製造インフラを米国に整備する計画(最大20億ドル投資)。 欧米二正面での許認可を同時に進める野心的な展開が注目される。 → 関連ニュースまとめ

SEALER(スウェーデン・LeadCold社)

スウェーデンのLeadCold社が開発する超小型LFR(電気出力 3〜10 MW(e))。 北極圏・遠隔地向けの分散型電源として設計。純鉛冷却・自然循環・長期無交換運転が特徴。 カナダでの規制審査(CNSC ベンダー設計審査)が進行中。

MYRRHA(ベルギー・SCK CEN)

LBE冷却の加速器駆動システム(ADS)研究炉。電気出力なし、熱出力約 100 MW(th)。 陽子ビームで中性子を生成し、臨界未満状態でMA・長寿命FPを核変換する実験施設。 LFRとは別カテゴリだが、LBE冷却技術・MA消滅研究の重要プラットフォーム。 2030年代中葉の稼働を目指す。

GIF(第四世代原子炉国際フォーラム)における位置づけ

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