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1DCAEによるものづくりの革新
Design Innovation Applying 1DCAE
書誌情報
| 著者 | 大富 浩一(OHTOMI Koichi)、羽藤 武宏(HATO Takehiro) |
| 所属 | 東芝 研究開発センター 機械・システムラボラトリー |
| 掲載誌 | 東芝レビュー Vol.67 No.7(2012)、pp.7–10 |
| 言語 | 日本語(英文アブストラクトあり) |
| PDF | PDF を開く |
背景
- CAD/CAEの普及により、設計の効率化・開発期間の短縮は定着してきた。
- しかしCAD/CAEは「形状」を起点とするため、設計情報が乏しい上流設計(概念・機能設計)への適用が困難。
- 改良設計には向く一方、新規設計では「価値・機能を起点にする仕組み」が別途必要。
- 製品開発サイクルの短縮化と、技術者の思考のワンパターン化が価値創出を阻んでいる。
目的
- 概念設計・機能設計を対象とした設計の枠組み「1DCAE」を提唱・開発する。
- 製品の価値・機能を起点に、設計上流から下流まで一貫して適用可能な考え方とツールを実現する。
- 従来のCAD/CAEでは創出困難だった革新的な設計解を導き出すことを目指す。
手法・提案内容
1DCAEとは
- 「1D」は1次元の意味ではなく、物事の本質を的確に捉え、機能をシンプルに表現することを意味する。
- 設計フロー:概念設計 → 機能設計(1DCAEが担当)→ 仕様を3D CAEへ渡す → 配置・構造設計 → 結果を1DCAEに戻して機能検証。
- 対象はメカ・エレキ・ソフトを横断し、コスト・リスク・非物理現象(経済・社会)も含む。
物理モデルシミュレーションとの関係
- 1DCAEのコンセプトを具現化するツールの一つとして物理モデルシミュレーション(Modelicaなど)が有効。
- 可動ステージを例に、メカ(質量・バネ定数)→物理モデル化 → 3D CAD/CAEで構造化 → 1DCAEに戻し検証、という流れを示す。
三つの設計分類(狩野モデルベース)
- Must設計:あたりまえ品質。きちんと作る。
- Better設計:性能品質。安く・早く・良く作る。
- Delight設計:魅力品質。顧客の琴線に触れるものを創る。
適用事例
- Better設計(医用機器):顧客要求 → 機能展開 → 構造展開 → コスト予測 → 性能とコストのトレードオフ分析。設計上流で有力案を選定し、新コンセプトを創出。
- Delight設計(家電機器・音のデザイン):音を「騒音」でなく「価値」として捉え直し、顧客の潜在的要求を抽出。「音のものさし」(ラウドネス・シャープネス・ラフネス等)を策定し目標音を設定。試作品を検証し、目標音質の製品開発を実現。
主な効果・結論
- 上流設計の実現:広い設計空間を対象にでき、新たな価値創造と設計品質向上につながる。部分最適でなく全体最適(価値最大化・コスト最小化・リスク最小化)が可能。
- システム全体の可視化:メカ・エレキ・ソフト横断の設計仕様策定が可能。抜け防止と品質・安全・安心の向上。
- エンジニアの育成:物理現象の深い理解を要求し、技術者の能動的学習を促す。専門外分野への理解も促進。
- 従来CAD/CAEとの連携により大きな効果が得られることを複数製品開発の試行で確認。
コメント
未解決問題・今後の課題
- 複雑な流体系(二相流・乱流)への1DCAEモデル適用と精度検証
- 原子力固有の規制・安全基準との整合性確保手法の確立
- 既存の安全解析コード(RELAP・TRAC等)との連携フレームワークの構築
- 物理モデルの不確かさ定量化・V&V手法の標準化
研究課題メモ
- RELAPとの連携による上流安全設計:概念設計段階でRELAPの簡易物理モデルと1DCAEを組み合わせ、設計パラメータと安全裕度の関係を早期に可視化する手法の開発。
- PCCS・PRCS系統の機能設計への適用:受動安全系の機能展開に1DCAEを使うことで、系統設計の上流から熱水力挙動を考慮した設計判断が可能になる。
- → 研究課題メモページ に関連アイデアを登録済み
関連論文
- 現時点では直接の関連論文なし。RELAP・安全解析の設計手法関連論文が追加され次第更新予定。
キーワード
1DCAE
上流設計
機能設計
概念設計
物理モデルシミュレーション
3D CAE
Modelica
SysML
狩野モデル
全体最適設計
音のデザイン
東芝
ものづくり革新
本論文は東芝が2012年時点で推進していた「1DCAE」の概念を体系的に整理した解説論文。具体的な計算手法や精度評価よりも、設計哲学・フレームワークの提案に重点が置かれている。
BWR等の原子力プラントの設計においても、システム全体(熱水力・構造・制御)の機能を上流で統合的に検討するアプローチは有用である。特に新設計・概念設計段階での物理モデルシミュレーション活用は、RELAPなどの既存コードと相補的な関係を築ける可能性がある。
「音のデザイン」事例は、従来の最小化問題(騒音低減)から顧客価値の最大化問題(快適な音)へのパラダイムシフトを示す好例で、設計思考の転換を示す。