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点集束型電磁超音波センサのSUS304鋼におけるスリット検出性能の評価
芦田一弘, 滝下峰史, 中村暢伴, 荻博次, 平尾雅彦 / 非破壊検査(Journal of JSNDI)Vol.65, No.2, pp.79–84 (2016)
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EMAT
非接触超音波
SV波
SCC検査
SUS304
書誌情報
| タイトル(英) | Evaluation of the Slit Detectability of the Point-focusing Electromagnetic Acoustic Transducer in SUS304 Steel |
| 著者 | Kazuhiro ASHIDA, Takashi TAKISHITA, Nobutomo NAKAMURA, Hirotsugu OGI, Masahiko HIRAO(大阪大学大学院工学研究科) |
| 掲載誌 | Journal of JSNDI(非破壊検査)Vol.65, No.2, pp.79–84 |
| 発行年 | 2016年(平成28年) |
| PDF | 点集束型電磁超音波センサのSUS304鋼におけるスリット検出性能の評価.pdf を開く |
背景
- 老朽化した原子力発電所における高経年化対策が最重要課題。圧力容器・配管(SUS304 / SUS316)に応力腐食割れ(SCC)が発生することが知られている。
- SCCは配管内面側に発生するため目視確認が困難。従来は圧電型斜角探触子を用いたUT(超音波探傷試験)で評価されてきた。
- しかし接触型UTは、接触媒質量・表面凹凸・押し付け圧力などに依存し再現性が低い問題がある。接触媒質量0.10 ml 以下でエコー高さが顕著に低下する(Fig.1)。
- 非接触計測法としてレーザ超音波・空気伝播超音波・電磁超音波(EMAT)があり、本研究ではEMATに着目。
- 既存のLine-Focusing EMAT(LF-EMAT)は20〜30 mm程度の焦線長であり、短い SCCに対して十分な信号強度が得られない。
目的
- SV波を材料中の一点(焦点)に集束する点集束型EMAT(PF-EMAT)を開発・製作する。
- SUS304鋼に設けた深さ0.05〜1.45 mmの人工スリットに対するPF-EMATのスリット検出性能を評価する。
- 従来の圧電型斜角探触子によるUTとの検出性能を定量比較する。
- 現場探傷を想定した影響因子(センサ傾き・リフトオフ・計測再現性)を評価する。
手法
PF-EMATの原理と構造
- 駆動方式はローレンツ力(非磁性体のステンレス鋼に適用)。
- 探傷面上に同心円弧状蛇行コイル(全開き角160°)を配置し、高電圧交流信号を印加すると渦電流が発生。永久磁石(ネオジム、50×20×30 mm)との相互作用によりSV波が発生する。
- 各線音源から焦点までの距離差が半波長ずつ異なるようコイル間隔を設計し、焦点で全SV波が同位相となる(式(1):r_i − r_{i+1} = C/2f)。
- 7本の線音源、板厚20 mmステンレス鋼での使用設計(h=20 mm、r₂=20.6 mm)、周波数2 MHz。
- 焦点から鉛直方向±13°〜37°の範囲にあるSV波を一点集束。同位相で重畳することで送受信効率と空間分解能を向上。
超音波送受信システム
- 高出力スーパーヘテロダインスペクトロメータ(RITEC, RAM-10000)使用。
- 送信:周波数2 MHz、サイクル数12回、バースト幅6 μsのバースト波。
- 受信:ブリアンプ増幅後にスーパーヘテロダイン処理し2 MHz成分の振幅を計測(平均回数100回)。平均化処理(平均回数16回)後の波形を観察しながら走査。
試験片と実験条件
| 項目 | 内容 |
| 材料 | SUS304ステンレス鋼(500×140×20 mm) |
| 人工欠陥 | 放電加工スリット 7箇所:深さ d = 0.05 / 0.15 / 0.20 / 0.45 / 0.50 / 0.80 / 1.45 mm、幅0.5 mm、長さ10 mm |
| 比較手法 | 圧電型斜角探触子(SV波、2 MHz、公称屈折角45°)によるUT |
| 評価項目 | スリット深さ依存性、センサ傾き依存性(θ)、リフトオフ依存性、実験員間再現性 |
結果
① スリット検出性能
- 全スリット(d = 0.05〜1.45 mm)でPF-EMATにより明確な検出を確認(Fig.5)。
- 最小検出深さ0.05 mm(2 MHz)を達成。LF-EMAT先行研究(板厚30 mmで0.05 mm)と同水準。
- y方向走査での集束範囲は±3 mm程度(Fig.6)。
② UTとの比較(Fig.7)
- UTではスリット深さが小さくなるにつれてエコー高さが顕著に低下するが、PF-EMATでの振幅の低下傾向は小さい(検出限界が低い)。
- PF-EMATではエコー振幅がスリット深さに比例しない。d = 0.80 mmで振幅が最大となり、これはスリット先端とコーナー部(根元)からの散乱波の干渉(位相差が小さくなり重複)が原因と考えられる。
③ センサ傾き依存性(Fig.8, 9)
SN比≥2 となるセンサ傾き範囲は±40°。UTで一般的な走査範囲±15°での振幅変化は約4 dBであり、実用上問題なし。
④ 実験員間再現性(Table 1)
5名の実験員によるブラインドテストで各スリット最大振幅を計測。実験員間の差は最大でも1.15 dB(平均差0.44 dB)。PF-EMATによる探傷は技量に依存しない高い再現性を示す。
⑤ リフトオフ依存性(Fig.10)
リフトオフが0.3 mm以下であればスリット(d = 1.45 mm)からの超音波信号の識別が可能。実際のコイルには絶縁テープ(約0.1 mm)が貼付されているため、実際のリフトオフは0.1 mm。現場探傷での表面状態の影響を受けにくいことを示唆。
未解決問題・今後の課題
- リフトオフ許容値のさらなる向上(現状0.3mm → 実機表面状態への対応)
- 複雑形状(エルボ・溶接部・段付き管)への適用と検出性能の検証
- 実機放射線環境・高温条件下でのセンサ耐久性の確認
- スリット深さの定量評価精度向上(d=0.80mmで振幅最大となる非単調挙動の解消)
- より大きなリフトオフ(1mm以上)でも有効な信号処理手法の開発
研究課題メモ
- BWR実機配管への適用拡張:再循環系・主蒸気系配管の複雑形状部での検出性能評価が未解決。定検工数削減・SCC早期発見に直結する実用課題。
- 経年変化トレンド管理への活用:高再現性(1.15dB以内)を活かした複数定検サイクルにわたる信号変化の統計的管理手法の確立。
- → 研究課題メモページ に関連アイデアを登録済み
関連論文
- 現時点では直接の関連論文なし。BWR配管検査・SCC関連論文が追加され次第更新予定。
キーワード
点集束型電磁超音波センサ(PF-EMAT)
電磁超音波(EMAT)
SV波(横波垂直偏光)
ローレンツ力
応力腐食割れ(SCC)
超音波探傷試験(UT)
非接触超音波
SUS304
スリット検出
リフトオフ
蛇行コイル
空間分解能
コメント(BWR検査の観点から)