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MOX燃料
Mixed Oxide Fuel(混合酸化物燃料)の略。
二酸化ウラン(UO₂)と二酸化プルトニウム(PuO₂)を混合焼結した核燃料。
再処理で回収したプルトニウムを軽水炉・高速炉で再利用するプルサーマル・核燃料サイクルの中核を担う。
BWRおよびPWRの双方で装荷実績があり、日本では大間原子力発電所(ABWR)がフルMOX炉として建設中。
基本組成と製造
化学組成
一般式:(U₁₋ₓPuₓ)O₂(xはPu富化度、軽水炉用では通常 x = 0.03〜0.12)
- UO₂とPuO₂は共に蛍石型結晶構造(FCC)をとり、完全固溶体を形成する
- Puには複数の同位体が混在。再処理Puの典型的な同位体組成:²³⁹Pu(55〜60 %)・²⁴⁰Pu(20〜25 %)・²⁴¹Pu(10〜12 %)・²⁴²Pu(5〜7 %)・²³⁸Pu(1〜2 %)
- ²³⁸Puの自発核分裂・α崩壊による発熱・中性子放出が取扱い上の課題
- ²⁴¹Puはβ崩壊(T₁/₂ = 14.4年)→ ²⁴¹Amを生成。経年変化でAm量が増加し、製造後の長期保管でγ線量率が上昇
製造プロセス
主要工程(粉末冶金法・共沈法など)
- 粉末混合・共粉砕法(MIMAS法など):PuO₂粉末とUO₂粉末を所定比率で混合・粉砕。均質性確保が重要課題
- 成型・焼結:混合粉末をペレット状に加圧成型後、1,600〜1,750 ℃で焼結(還元雰囲気)。密度は理論値の95〜96 % TD(Theoretical Density)に調整
- 研削・検査:外径を規定寸法に研削し、外観・密度・富化度を全数または抜き取り検査
- 被覆管への充填・封缶:ペレットを被覆管(ジルカロイ-2またはジルカロイ-4)に充填し、端栓溶接・ヘリウム加圧封入
- 全工程がグローブボックス内で行われる(α線遮蔽・臨界管理が必要)
主な製造施設
- メロックス工場(フランス・マルクール):年間195 tHM、主要な商業規模MOX製造拠点
- セラ工場(ベルギー・デッセル):年間40 tHM(現在拡張中)
- 日本原燃六ヶ所MOX燃料加工施設(青森県):年間130 tHM、竣工・操業開始に向け工事中
核特性
UO₂燃料との主な差異
| 特性 | UO₂燃料 | MOX燃料 | 備考 |
| 主核分裂核種 | ²³⁵U | ²³⁹Pu・²⁴¹Pu(+ ²³⁵U) | Puは低速中性子にも反応するが²⁴⁰Puに吸収損失 |
| 熱中性子吸収断面積 | 小(²³⁵U:585 b) | 大(²³⁹Pu:752 b、²⁴⁰Pu:289 b) | 中性子吸収が大きいため経済燃焼度が低い傾向 |
| η(中性子再生係数) | ²³⁵U:2.07(熱) | ²³⁹Pu:2.11(熱) | 熱中性子域でのηはほぼ同等 |
| 即発中性子寿命 | 長め | 短め(β_eff小) | ²³⁹Puのβ_eff ≈ 0.0021(²³⁵Uの 0.0065 より小) |
| ボイド反応度係数 | 負(BWR) | 負だが絶対値がやや小 | 熱中性子スペクトルが硬化すると²³⁹Puの核分裂率上昇に注意 |
| ドップラー係数 | 負 | 負だが絶対値がやや小 | ²³⁸Uの共鳴吸収が支配的な点は同じ。Pu富化度増加で若干弱まる |
| 減速材温度係数 | 負 | 負 | BWRでの熱的安定性は維持 |
BWR MOX炉心設計上の重要点
- 実効遅発中性子割合 β_eff の低下:²³⁹PuのβはUより小さいため、MOX装荷率の増加とともにβ_eff が低下。反応度制御の時定数が速くなり、制御棒応答要件や安全評価(ATWS解析)の裕度が変化する
- ボイド反応度係数の管理:MOX燃料はスペクトルが硬化(ボイド増大時)すると²³⁹Puの核分裂断面積が増加する傾向があり、ボイド反応度係数の絶対値がUO₂より小さくなりやすい。BWRの重要安全パラメータであるため、装荷量比率に上限が設けられる
- 制御棒価値:MOXの中性子吸収断面積が大きいため、周辺UO₂燃料の熱中性子束分布が変化し、制御棒価値の分布評価が複雑化する
- 炉心内混在装荷:日本の既存BWRでは全炉心の1/3程度をMOX燃料(通常「プルサーマル」と呼ぶ)、残りをUO₂で装荷。フルMOX炉(大間:ABWR)では全炉心MOXで設計
熱物性
| 物性値 | UO₂ | MOX(x≈0.07) | 影響 |
| 融点 | 2,847 ℃ | 2,700〜2,760 ℃(Pu富化度増加で低下) | 燃料中心温度制限値(FCTT)の設定 |
| 熱伝導率(900 ℃) | 約 3.0 W/(m·K) | 約 2.5〜2.7 W/(m·K) | 燃料中心温度が高くなりやすい |
| 比熱(Cp) | 約 0.33 J/(g·K) | ほぼ同等 | 過渡時の熱応答 |
| 線膨張率 | 約 10×10⁻⁶ /K | ほぼ同等(Puで若干増加) | 燃料-被覆管ギャップ変化 |
| FP生成によるスウェリング | 基準 | ガスFP生成量が多く、スウェリングがやや大きい傾向 | 高燃焼度でのPCI・被覆管応力 |
燃料中心温度(FCTT)への影響
- 熱伝導率低下によりUO₂同仕様の線出力では燃料中心温度が高くなる → 同等のFCTT余裕を確保するために線出力制限値(LHGR)をUO₂より引き下げる必要がある場合がある
- 高燃焼度ではPuO₂の分布(Pu不均質)とFP蓄積による熱伝導率のさらなる低下が重なる
- BWRの燃料設計安全評価では LHGR・CPR(限界出力比)の両面でMOX特有の補正係数を適用
放射線特性と取扱い上の注意
α線放出(²³⁸Pu・²⁴¹Am)
新鮮MOX燃料は²³⁸Puと²⁴¹Am(²⁴¹Puの娘核種)からのα線放出があるため、グローブボックス・遠隔操作が不可欠。
α線は透過力が低いため外部被曝よりも内部被曝(吸入・経口)が主要リスク。
製造後の保管期間が長くなるほど²⁴¹Am蓄積量が増加し、γ線量率も上昇(2〜3年で顕著)。
自発核分裂中性子(²⁴²Cm・²⁴⁴Cm)
照射済みMOX燃料(使用済み燃料)には²⁴²Cm・²⁴⁴Cmが蓄積し、自発核分裂による高い中性子源強度を持つ。
再処理・輸送時の中性子線量率がUO₂使用済み燃料より格段に高い。
再処理でPuを回収しても次世代MOX燃料にAmが残存するため、繰り返しリサイクルでのAm富化が課題。
臨界管理
²³⁹Puは²³⁵Uより臨界質量が小さく(裸体球臨界質量:²³⁹Pu ≈ 10 kg、²³⁵U ≈ 52 kg)、製造・輸送・貯蔵の全工程で厳密な臨界管理が必要。
形状管理(平板・細管等)・質量制限・中性子吸収材(Gd・B)の使用・液体回避が基本。
BWR燃料集合体ではGd₂O₃添加燃料棒を可燃性毒物として兼用することが多い。
BWR MOX燃料の設計・安全評価
燃料集合体設計の特徴
- BWR MOX集合体(例:日立GNF-J MOX、東芝 8×8 MOX)は、UO₂集合体と同じ外形寸法・ラティスピッチに合わせて設計(炉心との互換性維持)
- 集合体内のMOX燃料棒とUO₂燃料棒を混在配置(「バンドル設計」)し、出力分布・ボイド反応度を調整
- 可燃性毒物(Gd₂O₃)添加燃料棒を組み込み、初期余剰反応度抑制とボイド反応度係数の管理に用いる
- Pu富化度は集合体内で不均質化(燃料棒ごとに異なるPu wt%)して出力ピーキング係数(FΔH・MFLPD)を最適化
安全評価で要注意な過渡事象
- ATWS(予期せぬ出力上昇+スクラム失敗):β_eff 低下でスクラム後の即発臨界余裕は拡大するが、スクラム失敗時の出力上昇速度への影響を詳細評価
- RIA(反応度投入事故):制御棒抜け事故時のエネルギー入力。MOXペレットの熱伝導率低下→燃料中心温度がより高くなる傾向
- 燃料棒破損(PCMI):高燃焼度でのPuO₂によるスウェリング増加→被覆管との機械的相互作用(PCI/PCMI)のリスク評価が必要
核燃料サイクルにおける位置づけ
プルサーマルの燃料フロー
- 使用済みUO₂燃料 → 冷却(数年)→ 再処理(PUREX法でU・Puを分離)→ PuO₂粉末 → MOX製造 → 装荷 → 使用済みMOX → 冷却・貯蔵(再処理は次段階課題)
- 1回のプルサーマルでPuの約45〜50 %を消費。天然ウラン節約量は約15〜20 %と試算
- 使用済みMOXのPuはAm・Cm富化が進み再処理難度が高い → 高速炉(SFR・LFR)でのMA焼却が長期目標
世界のプルサーマル実績(代表例)
- フランス:20基以上のPWRでMOX装荷継続中(世界最大の商業実績)
- ベルギー・スイス・ドイツ(旧):複数のPWRでMOX装荷実績
- 日本:高浜・伊方・玄海(PWR)、東海第二・柏崎刈羽(BWR)等でプルサーマル実施・計画中
- インドPFBR(高速増殖炉):2026年4月に初臨界達成。MOX燃料による高速炉プルサーマルの先行事例
→ 関連ニュース
日本のMOX燃料サイクルの現状
| 施設・発電所 | 状況(2026年時点) |
| 六ヶ所再処理工場(日本原燃) | 竣工・試運転中。2024年度中の操業開始を目指す |
| 六ヶ所MOX燃料加工施設(J-MOX) | 建設中。竣工後年間130 tHM製造能力 |
| 大間原子力発電所(JPOWER・ABWR) | 建設中(フルMOX炉)。竣工時期未定 |
| 高浜3・4号機(PWR) | プルサーマル実施中(MOX 1/3装荷) |
| 伊方3号機(PWR) | プルサーマル実施中 |
| 玄海3号機(PWR) | プルサーマル実施中 |
| 柏崎刈羽3号機(BWR) | プルサーマル計画あり(再稼働審査待ち) |
UO₂燃料との比較まとめ
| 観点 | UO₂燃料 | MOX燃料 |
| 主燃料核種 | ²³⁵U(濃縮ウラン) | ²³⁹Pu・²⁴¹Pu(再処理Pu) |
| β_eff(遅発中性子割合) | 約 0.0065 | 約 0.004〜0.005(装荷率依存) |
| ボイド反応度係数 | 負(大) | 負(やや小) |
| ドップラー係数 | 負(大) | 負(やや小) |
| 熱伝導率 | 約 3.0 W/(m·K)@900 ℃ | 約 2.5〜2.7 W/(m·K)@900 ℃ |
| 融点 | 2,847 ℃ | 2,700〜2,760 ℃ |
| 製造難易度 | 低(乾式工程・大気中作業可) | 高(α遮蔽・グローブボックス・臨界管理) |
| 使用済み燃料の中性子線量 | 低 | 高(Cm蓄積) |
| 資源有効利用 | ウラン消費型 | Pu再利用・天然U節約 |
| 炉心装荷比率(BWR) | 2/3〜全量 | 1/3以下(プルサーマル)または全量(フルMOX) |
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