ハルデン炉と重水炉の基礎

日付:2026-03-27 / タグ:重水炉中性子物理炉物理

ハルデン炉とは

ハルデン炉とは何か
ノルウェー・ハルデンの岩盤内に設置された沸騰重水炉(BHWR)の研究炉(JEEP-II)。 1959〜2018年の約60年間にわたり、OECDハルデン炉プロジェクトとして20カ国以上が参加した国際共同研究基盤。 核燃料照射挙動・材料照射試験・計装研究の世界的中心地として機能し、発生蒸気を地域暖房にも活用していた。

なぜ重水(D₂O)を使うのか

なぜ重水なのか
重水(D₂O)は中性子吸収断面積が極めて小さい(約0.001 barn)ため、中性子を「無駄に吸収せず」熱中性子まで減速できる。 これにより濃縮度の低い天然ウラン(U-235 約0.7%)でも連鎖反応を維持できる。 研究炉としては「余剰反応度の余裕」が生まれ、様々な実験用燃料を装荷しても炉が止まりにくい利点もある。
減速材熱中性子吸収断面積天然ウラン利用
重水(D₂O)〜0.001 barn可能
軽水(H₂O)〜0.66 barn低濃縮ウラン必要
黒鉛(C)〜0.004 barn可能

暴走しやすいか・しにくいか

中性子吸収率が低い=暴走しやすい?
直接の因果関係はない。炉の安定性を左右するのは「ボイド係数」や「温度係数」などのフィードバック係数。
冷却材がボイド化したときの反応度変化は「吸収の減少(正の反応度)」と「減速能の低下(負の反応度)」の競合で決まる。 D₂O は元々吸収が小さいため、ボイド化しても吸収変化は軽微で、減速能低下(負の反応度)が支配的になりやすい。
「低吸収 → 暴走しにくい」は一般的に正しい方向の直感。CANDU炉の正のボイド係数は冷却材と減速材の分離設計に起因するもので、 D₂O の吸収特性そのものとは別の問題。

減速とは何か

「減速」とは蒸発しにくいこと?
減速とは蒸発・相変化とは無関係。核分裂で生まれた高速中性子(MeVオーダー)が、 D₂O の重水素原子核と繰り返し衝突して速度(エネルギー)を落とし、熱中性子(〜0.025 eV)になること。 ビリヤードと同じ原理で、質量の近い相手にぶつかるほどエネルギーを失いやすい。
衝突で移行したエネルギーは重水の加熱となり、沸騰重水炉ではその蒸気を熱源として取り出す。 「減速 → D₂O 加熱 → 蒸発促進」というユーザーの指摘は物理的に正しく、設計上のエネルギー取り出し機構そのもの。

天然ウランが使える理由の誤解

吸収しにくいから高速中性子のままでいやすく、天然ウランが使える?
「吸収しにくい」は正しいが、「高速中性子のまま」は逆。 天然ウラン炉は熱中性子炉であり、D₂O による減速は不可欠。 高速中性子では U-235 の核分裂断面積が小さく、天然ウランの濃度(0.7%)では臨界を維持できない。
中性子の種類U-235 核分裂断面積天然ウランでの臨界
高速中性子小さい困難
熱中性子大きい(〜580 barn)D₂O なら可能
正しい理解:「D₂O は中性子を熱中性子まで減速するが、吸収しない。だから中性子を無駄にせず、 濃縮度の低い天然ウランでも連鎖反応を維持できる」
会話全体のまとめ
ハルデン炉を入口に、重水(D₂O)の核的特性(低吸収・良好な減速能)を掘り下げた。 「吸収しにくい → 暴走しやすい/しにくい」「高速中性子のまま」などユーザーの直感を一つずつ検証しながら、 中性子減速・ボイド係数・中性子経済の概念を整理した。 最終的に用語集(halden_reactor.html)として6用語にまとめた。